2020.08.19

株式会社スマートドライブ

移動の進化を後押しする

MAIN INTERVIEW
株式会社スマートドライブ

代表取締役

北川烈kitagawa retsu

KOKOROZASHI

移動の進化を後押しする

今回の取材について

今回の企業は2013年に創業し、日本経済新聞社による「NEXTユニコーン調査」で45位にランクイン(2019年10月時点)している株式会社スマートドライブ。「社会にインパクトのあるような大きなテーマを、少しでもスマートにドライブしていけるように。」そのような想いが社名に込められた企業である。
     
現在の事業は、大きく3つの領域に別れており、あらゆる移動体のセンサーデータを収集する「データインプット」領域、収集したデータの利用価値を高める「プラットフォーム」領域、 これらのデータを活用したサービスを提供する「データアウトプット」領域で、会社のビジョンである「移動の進化を後押しする」に向けて挑戦を続けている。
     
取材を行ったのは、代表取締役の北川さん。Forbes ASIA「30 Under 30 ASIA」(アジアの次代を担う『30歳未満の30人』)に選出されるなど、正に新進気鋭の経営者である。その北川さんの描く未来像や、組織運営を行う上で大切にする考えについて伺った。

事業推進の原動力となる志や大切にされる価値観

事業を始めたきっかけを教えてください。

学生時代のアメリカへの留学がきっかけとなりました。当時は慶應義塾大学の商学部で金融工学を勉強していましたが、技術的な世界を学びたく、その分野でトップのMIT(マサチューセッツ工科大学)を目指しました。慶應義塾大学から直接の留学プログラムはなく、人づてにMITのメディアラボの教授を紹介してもらい、研究室の手伝いをながら授業を聞く機会を得たのです。

そこで体験が衝撃的でした。出会った技術系の人たちは、20 年・30年先の世の中に必要とされる可能性のあるテクノロジーの研究を日々熱心に行っていました。その光景を見て、「自分も将来は、世の中を良くしていくことに携わりたい」という思いが芽生えると同時に、「研究開発の才能はない」と思う自分がいました。ですから、0⇒1ではなく、1から広げていくことに注力していこうと思いました。自分自身が開発をするのではなく、自分の個性とも言える器用貧乏さを生かして、技術研究を行っている人たちがつくった世の中を良くしていく種を育て、世の中に広げていく仕事をすることにしたのです。

なぜ移動の領域に着目をしたのでしょうか。

自分自身が実際に感じていた移動に関する課題と、留学後に東京大学大学院で研究をした分野が移動体関連であったことが影響をしています。

学生時代から移動が苦痛で、日々の生活の中で「移動とはいったい何か」と考えることが多くありました。例えば、通学では、毎日往復1~2時間をかけ、同じ電車で移動をする必要がありました。感じ方は人それぞれかもしれませんが、何も代わり映えのしない、無駄な時間を使っているとも言えます。

車で移動したとしても、朝の通勤ラッシュに巻き込まれると、渋滞を抜けるために必要のない時間を使うことになりますし、交通事故といったリスクも抱えます。何気ない日常ですが、移動に関して様々な疑問や違和感に直面しますし、私は車酔いもする体質なので、それも苦痛の一つでした。

当たり前のことですが、可能な限り無駄な移動はなくして、より有意義な時間として使うことができれば良いですし、リスクもない方が良いに決まっています。移動を効率化し、もっと楽しい時間をつくることができれば、世の中はもっと良くなる。そんな思いを昔から抱いていました。

ビジョン「移動の進化を後押しする」に込めた思いとは。

大前提として弊社が行っている事業は、私たちが存在しなくとも実現する分野です。その中にあって、自分たちの存在により、より早く世の中に広がり、その世界観が実現するまでの時間を短くしたいです。

例えばスマートフォンは、iPhoneがなくとも世の中に普及したはずです。ですが、iPhoneやその思想設計のもととなる、スティーブ・ジョブズさんがいたからこそ、より早くより素晴らしいプロダクトが生まれ、世の中のエコシステムとして洗練されたものができたのではないでしょうか。

私たちも全く新しい世界をつくるのではなく、「移動の進化」そのものを後押しすることで、世界観を広げると同時に、その領域で世の中をより早く豊かにしていきたいと考えています。そのような思いを込め、弊社のビジョンは「移動の進化を後押しする」としています。

様々な方と話してみても、移動が進化すると実現できる世界観を何かしら持たれています。そんな皆さんの「あったら良いな」をそれで終わらせるのではなく、どうすれば実現できるかと考え、実際にカタチにしていきます。

北川さんにとっての、移動が進化した先に実現したい世界とは。

私たちの考える移動の進化には2つの側面があります。1つ目は効率化をすること、2つ目は新しい移動、出会いを生み出すことです。今進めている事業では、移動を可視化し分析することで、移動時間を効率化する、業務を効率化する、といったことが実現できています。

そしてスマホが生まれ、私たちの生活が変わったように、移動の効率化により世の中の動きが変わり、新たな消費が生まれるはずと考えています。今は効率化に注力をしていますが、その先にある新しい消費を生み出すことも視野に入れて取り組んでいきます。

また、私自身の思いとしては、移動を効率化して無駄な移動をなくし、浮いた時間で新しい場所に出かけることができたり、移動自体がもっと楽しい体験となる、そのような世界になってほしいと思っています。例えば、交通事故がなくなる、渋滞がなくなる、そんな日常に存在する当たり前の負の要素が、次の世代では概念としても存在しない事象にできれば素敵ですし、そんな世界を1日でも早く引き寄せることに貢献をしていきます。

商品・サービスに込められた想い

サービスの魅力や強みについて教えてください。

現在の弊社のサービスは、ビジョンである「移動の進化を後押しする」のもと、ドライバーの安全と車両管理を効率化する「SmartDrive Fleet」、安全運転診断・ドライバー支援サービス「SmartDrive Cars」、家族の運転見守りサービス「SmartDrive Families」の3種類があります。

いずれも将来、確実に必要なエコシステムのような存在となるよう逆算して設計をしており、そのために意識しているポイントが二点あります。一つはデータのプラットフォームとしての存在。自分たちだけで完結する必要はないので、他社と連携しつつ、データを使用する各企業にとって使いやすい形で構築をしていけば良いと考えています。

もう一つはオープン性。同業他社には、特定の企業内で完結するようなプロダクトもありますが、弊社は様々な企業との連携で得られたデータを活用することができます。単一のプロダクトではなく、様々なところでお客様と接点が作られていくような多層的なエンゲージメントづくりを意識しています。例えばA社の扱う車両データだけでなく、様々な企業の車両データを収集・解析することができますので、お客様の課題を細かく分析して、本当にかゆいところに手が届く提案ができます。

導入が増えたキッカケは何かございますか。

具体的に解決できることを明示できるようになった点ではないでしょうか。「将来的に〇〇がスタンダートになると良い」といった話はお客様からの共感を得られやすいです。一方で、お客様もビジネス的な側面でメリットがなければ導入をしていただけません。

私が他社の話を聞いていても、その点がフワッとしていると感じることがありまして、私たちも最初は「データのプラットフォームです。どうぞ」といったような提案が多く、何ができるのか不明瞭で、解決できることを明示することができていませんでした。目指す世界観に共感をしてもらうことは当然のこととして、お客様が今直面する課題に対してどのようにお役立ちできるのか、それが明確になったタイミングから局面が変わりました。

例えば、現在プロジェクトをご一緒しているホンダさんとは、コネクテッドバイクサービスの分野での取り組みを行っています。配達業務用などのビジネスバイクの分野で付加価値を高めることが狙いです。そのコネクテッドバイクサービス「HONDA FLEET MANAGEMENT」では、「従業員の位置情報を把握したい」「長時間労働を可視化したい」「ドライバーの安全運転意識を高めたい」といったビジネスバイクを利用する企業の車両管理に関する悩みを解決することで、業務の合理化を図ることを目指しています。

この開発に弊社が携わっている背景を紹介しますと、当初、ホンダさんはバイクのデータを可視化して生かしていく世界が来るイメージは持っていましたが、実際に足元の課題をどのように解決していくのか詰め切れていない状況でした。そのような状況のなか、「開発スピード」「運用実績」「サービス構築後の進化」の3点について課題解決を期待され、弊社からは、データをどのように分析をすれば、業務やコスト構造が変わっていくかの提案を行い、受注に至ったのです。

このように、世界観だけでなく、足元のメリットを訴求できるようになったことが、飛躍の要因となりました。

移動データの可視化や分析の可能性を教えてください。

私たちが行っている移動データの可視化や分析は今後確実に広がっていく分野です。一方で、普及度がまだ高くなく、データの可視化を進めるだけでも大きなニーズがあると手応えとして感じています。例えば、車両の利用状況、運転者のスキル、効率観点からの車両の必要台数といったものは、多くの企業においてはまだ可視化されていない現状があります。その可視化を通じて解決できることに沢山の可能性が秘められているのです。

もちろん、可視化や分析をお客様の実利に繋げていく必要があります。そこで大きくつの方向性での解決が求められています。一つはコストの改善。可視化のためにエクセル管理で膨大な工数をかけている会社は全自動化することで時間コスト、人件費コストを改善できます。また、可視化したデータをもとに、事故を起こしやすい運転を行っているドライバーの癖を可視化して、運転の改善に向けデータをもとにフィードバックを行うことで、発生を未然に防ぎ、必要のないコストを抑えることができます。

もう一つは業務効率の改善。無駄な移動を分析して、営業効率を改善する。配送ルートを可視化して、より効率的なルートを分析することで配送効率を上げる。そういったこともできるのです。

法人だけでなく、個人にとっても何か「移動が進化」すると変わることを教えてください。

ドライバーエンゲージメントの取り組みを紹介します。安全運転診断・ドライバー支援サービス「SmartDrive Cars」がその例となりまして、良い運転をしている方にメリットがあるような仕組みづくりを行っています。例えば、運転内容が良ければ貯まるとギフトなどに交換可能なポイントが得られたり、社用車で良い運転をしていれば、個人で利用可能なお得なクーポンを獲得できたりといったメリットを受けることができます。

今後に向けた挑戦について教えてください。

スマートドライブのドライブには、運転という意味と併せて、「世の中を賢くドライブしていこう」という意味を持ちます。私たちは車両にまつわる悩みを解決することを行いますが、もっと視野を広げて移動に関する悩みを解決していく会社です。

車の移動だけではなく、自転車やバイク、車両だけでなくモノの移動や人の移動、全ての移動に対応していくことに挑戦をしていきます。車両管理や安全運転の推進による保険料値下げといった狭い領域だけではなく、移動そのものの課題解決に焦点を合わせる必要があります。

その挑戦のために、サービスの強み生かし、様々なレイヤーのお客様とのお付き合いを広げていき、多様な組み合わせを生むことで、エコシステム的な存在として、移動にまつわるより多くの課題を解決していきたいです。また、移動にまつわる課題は日本だけでなく、世界全体に存在します。まずはマレーシアに進出し、東南アジアでの拡大を考えていますが、日本から世界へと移動の進化による世界観を広げていきます。

人財活性や組織づくりへの取り組み

創業時に苦労したことや留意したことがあれば教えてください。

将来的に会社に必要となる要素を逆算してつくることを意識していました。普通のスタートアップですと、まずはプロダクト開発のためにエンジニアの採用から考えると思います。もちろん目先ではその通りですが、中長期を見据えビジョンを実現するためには、より優れたメンバーに集まってもらう必要があります。また創業当時は何もないので、目指す世界観を伝え、そのために協力しあうことのできる優れたメンバー集めが肝となります。しかし、スタート段階においては、私自身の考えを伝えようとしても、その解像度や説得力はまだまだ足りません。

そこで、私の考えをビジュアライズ化して、正しく伝えると同時に、集ったメンバーを厚くサポートできるような優れた方の採用に重きを置きました。私以外の最初の3人は1番目がデザイナー、2番目がデータサイエンティスト、そして3番目が人事でした。弊社のプロダクト開発の強みの根幹は、データ分析になると考えていましたので、データサイエンティストは2番目でしたが、実際にプロダクトをつくるエンジニアは4番目・5番目でした。

なぜ優れた人材からの協力を得られたのでしょうか。

やはり私自身が、本当に信じている世界観であり、それを自信を持って言えることが一番大きいのではないでしょうか。移動という大きなテーマは、何か実現したいワクワク感を想起される世界観がありますし、それで世の中が良くなっていくビジョンに、皆さん共感をしていると感じます。

世界観を話す時は、それが突拍子もないことを言っていることはなく、来るべくして来る、世の中にとって必要なことを良いカタチでより早く実現させるといった話をします。そうすると、同じく世の中のためにと思っている、私よりも優れた方たちが力を貸してくれるのです。

参加するメンバーで多いパターンは、近しい領域に携わっていたり、スキル的に近い分野に携わってきた人たちです。そういった人たちが、磨いてきたスキルやアイデアをより社会の貢献や課題解決に使いたい、と一念発起している印象を受けます。例えばエンジニアですと、現在の仕事よりも、社会貢献性の高い交通事故や渋滞をなくすといった課題にそのスキルを使いたいと力を貸してくれます。

学生起業でしたから、私自身は何かに優れているというわけではなく、もちろん開発もできないわけです。今もですが、会社のメンバーは基本的に私より年上で、私ではなく私の話していることのために、「力を貸そう」「助けよう」と一肌脱いで集まっていると感じます。

優れた多様な人が集まる中で、経営者の役割とは何でしょうか。

前提として私は誰よりも優秀だからと、社長の役割を担っているわけではありません。方向性を指し示す、ビジョンをきちんと皆に伝える、そういったことを私が一番できるから、社長として行っているだけです。

社長の志や考えていることにブレが生まれたり、そもそもの情熱を失ってしまうと、会社全体の推進力を失ってしまいかねません。逆にそれらを持ち続けることができれば、ビジョンを実現することができると考えています。もはや意地です。志や考えをいかに長くピュアなかたちで持ち続け、周囲に伝播させることが経営者として大切であると感じています。

組織運営において意識している点や、貴社ならではの取り組みがあれば教えてください。

コロナでより実感をしましたが、外部環境が激しく変化する現代、良いものを作ろうと日々のプロダクト開発に注力する中では、その都度、方針を変化させていく必要があります。その中にあって、足元の方向性も将来的な方向性も、頻繁にコミュニケーションを取っていかないと、ギャップが生まれやすいと感じました。そこで、コミュニケーションをより一層意識しています。

また、今までは上から下のコミュニケーションが多い傾向がありましたが、これからはボトムアップが大切です。組織方針等がきちんと伝わっているか確認をする観点、お客様と一番接している現場の良い意見やアイデアの種を知り、きちんと育てていく観点を特に意識しています。

仕組みとしては1on1OKRに近しいものを運用し、取り組んでいます。例えば、マネージャーが1on1を通じて現場の意見を引き出し、経営層にフィードバックをすることで組織に良い流れを生み出していこうと取り組んでいます。またOKRにより具体性を持たせる形で、目標管理の仕組みを独自に作りこみ、事業とチームの成長を促進することを期待しています。

今後に向けた組織面での挑戦点について教えてください。

当たり前のことを徹底していくことに尽きます。可能性が広い領域を扱っているからこそ、様々な話や提案をいただくことが多くあり、チャンスが多々あります。その一つ一つをきちんとやりきることが大切ですし、その実現のために社員が当たり前のことをしっかりと行うことが重要です。

当たり前のことを徹底していくことは、弊社組織の原点となる強さでもありますので、組織が大きくなっても、事業が大きくなっても、きちんとやりきれるか否かが課題であり挑戦点です。バリューのような形で明文化をしておりますが、その体現のため、私自身はもちろんこと、マネージャーらが筆頭となり高いレベルで体現することを徹底したいです。

一方で、まだまだその意識を浸透できる余地があります。リモートワークが中心となり、対面で話す機会が減ってきている中で、「80人弱の社員が完全に同じ方向に向いているか」と問われれば、まだまだ改善できる余地があります。もちろん、会社のビジョンやミッションを言葉で知らない人は入社をしていません。ですが、目の前で行っている仕事とビジョン・ミッションとの連続性が薄まるような感覚が生まれることは、現実問題としてこの先にあると感じています。

文字で伝えることは当然のこととして、実際に一人一人の仕事と結び付ける作業を、全員に行うことは私一人では厳しいです。マネージャーなど、間に入る人が行えるようになった時に、本当の意味で浸透すると思います。

今はまだ、目指すべき組織像に対して、山のふもとです。山を登っていくのに必要な要素はすでに社内にあるはずです。しっかりと強みを伸ばして、同時に無駄なぜい肉を落としていく作業を通じて、当たり前のことをきちんとやり切ることができれば、ビジョンの実現がぐっと引き寄せられるはずです。

COMPANY PROFILE

理念・ミッション

  • ビジョン:移動の進化を後押しする
  • ミッション:グローバルで最も利用されるモビリティデータプラットフォームになる

社名

  • 株式会社スマートドライブ

代表

  • 代表取締役 北川烈

事業内容

  • ハードウェアやアプリケーション、テレマティクスサービス等の開発・提供、およびデータ収集・解析

設立年

  • 2013年10月

社員数

  • 75名

売上

  • 非公開

所在地

  • 100-0011 東京都千代田区内幸町1-1-6 NTT日比谷ビル 5F

受賞・表彰歴

  • 第3回「CNET Japan Startup Award」最優秀賞 ※主催:朝日インタラクティブ・THE BRIDGE
  • 「NEXTユニコーン 推計企業価値ランキング」45位 ※主催:日本経済新聞社
  • Forbes ASIA「30 Under 30 ASIA」(アジアの次代を担う30歳未満の30人) ※主催:Forbes Asia

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