2021.04.08

iYell株式会社

何をやるかより誰とやるか

MAIN INTERVIEW
iYell株式会社

代表取締役社長兼CEO

窪田 光洋Mitsuhiro Kubota

KOKOROZASHI

何をやるかより誰とやるか

今回の取材について

住宅ローンテックを提供するiYell株式会社は、日本最大の住宅ローンマーケットプレイスを核とした住宅ローンプラットフォームを展開しています。「応援し合う地球へ~chain of ‘Yell’~」をビジョンに、住宅ローンに関する様々な課題をテクノロジーで解決し、家を買いたい全ての人に「最高の住宅ローン」を提供できる社会の実現を目指しています。
また、同社は2021年からビジョンを刷新し、「応援し合う地球」を合言葉に隣の人の夢を応援するビジネスを展開しています。

今回の取材では、代表取締役兼CEOの窪田光洋さんに、ビジョンをアップデートされたきっかけや応援し合う地球を実現するための組織作りについてお話を伺いました。

事業推進の原動力となる志や大切にされる価値観

経営理念やビジョンをアップデートされたきっかけを教えてください。

言葉って流れてしまうので、どこかでまとめないといけないなと思っていました。ミッションが何でビジョンが何でと並べて説明しても関係図が分からないので、それぞれが持つ意味は表層的にしか理解できないです。本来ならば家族の家系図のようなもので、おじいちゃんとおばあちゃんがいて、その二人から生まれたのが父親と母親で、そこから生まれたのが自分。そして兄弟がいて、息子がいて、孫がいてという関係図が分かると自分がいるポジションが見えてきます。ビジョン・ミッション・バリューとか、経営理念や経営思想、戦略や戦術などいろいろな言葉が日本語にはありますが、バラバラに語っても戦略と戦術の違いが分からず、目的と目標の違いさえも分からず、理解が難しいです。なので、体系化を一つのキーワードにして、それらを分かり易くまとめたCOMPASSというブックを作成しました。

一番のポイントは経営理念と文化戦略と事業戦略の図です。経営理念が中心にあり、その周りに文化戦略という世界があり、文化戦略の中に環境戦略とiYellists戦略というものがあります。環境戦略の中には時間と空間の戦略があり、iYellists戦略の中には個人と組織があります。事業戦略にはビジネスモデルや組織図や会議体という要素があり、事業と文化を足して経営戦略としています。そして、最終的に事業戦略を通じて目指すiYellの夢がビジョンとミッションとして存在している。こういう関係図をすごく重視しました。

経営理念などをブックにまとめるにはすごくエネルギーを使うと思いますが、どれくらいかかりましたか?

ブックは文章にして150ページぐらいあるのですが、この時代に本にするからこそ意味があるかなと思い、1年半かけて作成しました。はじめは要素集めとして、社員全員にヒアリングしました。例えば社員にはiYellを一言で表すとなんですか?と質問し、全員で支え合う会社や、ラージファミリー、やさしさの集まり、古くて新しい会社などの感想を集めました。社員一人ひとりがiYellのミッションやビジョンを言葉にしていくことで、その意味やその言葉にかける想いなどが形になってできたものがCOMPASS(ブック)だと思っています。

事業戦略を通じて最終的に目指すiYellの夢について詳しく教えてください。

今回のコロナ禍も含めてどういう世界観を作りたいかというと、やっぱり人々が応援し合うようなそんな地球を作っていきたいです。ブックにはChain of Yellと書いているのですが、Yell(エール)は和製英語で応援という意味で、iYellの社名の語源にもなっています。そのエールをチェーンのようにつないで、みんなで助け合えばコロナなんて乗り切られると思っています。私は日本がすごく好きな国なんです。諸外国に比べればコロナが比較的抑えられているのは、日本人ならではの助け合いとか思いやりとか、応援し合う精神が他国に比べて強いので、お互いを守り合っているんじゃないかなと思っています。こういう世界が、私たちが目指す世界です。

そのために私たちがやることは、隣の人の夢の応援です。これが私たちの存在意義です。隣の人の夢を私たちが応援するとそれがチェーンとなってつながって、地球上が応援し合う地球になると思っています。今は住宅ローンテックというドメインでビジネスを行っていますが、たまたま住宅ローンテックを今やっているのであって、住宅ローンじゃなくてもいい。明日は居酒屋ビジネスに転換してもいいよね?というのは社内の共通のテーマとして出ています。私たちが目指したいのは応援し合う地球を作ることです。

応援し合う地球という言葉に至った経緯を教えていただけますか。

人は生きていて睡眠時間を除けば、働いている時間が最も多いです。その最も多い時間は楽しいほうが良い。つまらないほうが良いという人はいないです。楽しいほうが良いに決まっているけど、仕事楽しいですか?とアンケートを取ると、23割の人しか楽しいと答えません。仕事は人生で一番使う時間なので、楽しまないともったいない。経営者がやるべきことは社員が楽しい、幸せだ、会社に来たいと思う会社を作ることに尽きると私は思っています。
それが100人になっても、1,000人になっても、10,000人になっても、みんながそう思い続けたら、労働や働くということがすごく楽しくなると思います。その結果、仕事が楽しいと思う人がいろんなビジネスを立ち上げれば、楽しさから来ているビジネスなので、成功すると思います。苦行から来ているビジネスは成功しません。

従業員が幸せである、そうするとお客様も幸せにできる。だからビジネスも成功する。その結果お金が入ってくる。さらに社員を雇用し、社員の福利厚生を増やすことができる。より多くの社員が幸せになる。その結果、もっと多くのお客様が幸せになると思うんです。私は世の中で一般的に信じられていることの逆の循環が正しいことを発信していきたいです。

働くとは人が動くと漢字で書くように、仲間と一緒に何かをやっていて、一人でやっていることはないです。何かをやるには助け合うとかサポートすることは絶対に必要です。サポートとか助け合うとかバックアップとかを私は一言で応援と呼んでいるだけです。この社会においては人のつながりがすごく重要だと思っています。

隣の人を応援しようと言っても、応援の定義って何ですか?とか、応援ってどうやってやるんですか?とみんなふわふわしていて、今まであまりビジョンやミッションが浸透しなかったんです。僕らは今回このブックの中で、応援とはどういうことであり、社員はどういうことを実際にするべきか、どういうことを考えるべきかなどの価値観や行動の規範も書いています。そこまでドリルダウンするからこそ、社員は「あっ!これをやればいいんだ」ということが見えてきて、全員の価値観や行動も共通化していきますし、個々人で基準を持てるので、何をするべきで、何をすれば正解なのかが分かるようになっています。

商品・サービスに込められた想い

住宅ローンに注目されたきっかけを教えてください。

私たちは創業時から住宅ローンテックではないんです。最初は、不動産会社の食べログのようなサービスから始めました。エンドユーザーから見て不動産会社の良し悪しの判断は難しいと思い、信頼できる不動産会社を探せるビジネスから始めました。ただ私たちは二つの軸を意識していました。一つは自分たちが出来ること、自分たちがしたいこと、お客様が求めていること、儲かることです。もう一つは私たちのミッションである隣の人の夢を応援しようです。私たちが出来ることは何だろう?隣の人の夢を応援できるのは何だろう?と考えれば考えるほど住宅ローンテックに必要性が見えてきました。

住宅ローンは残高で200兆円ぐらいある巨大なマーケットです。住宅ローンは人生でみんな一回は借りますが、逆に一回ぐらいしか借りないので、良い商品かどうか分からないんです。スマホでしたら何回も買い直すので、消費者の間でこのスマホがいいよねなどの議論がありますが、住宅ローンは一回ぐらいしか借りないのでそういう議論がないんです。私たちプロが見れば、人によっては、最大2千万円ぐらい損していると思っています。今、世の中では老後のお金が2千万円足りないと騒がれていますが、いい住宅ローンを選べばこの問題は、ほとんど解決できると思っています。私たちがいい住宅ローンをプロとして選んであげれば、2千万円が人生において浮くのです。

人は家を買うことに99%興味があって、住宅ローンには1%ぐらいしか興味がないです。いい家、住みたい家は必死で探しますが、住みたい家が決まればあとはなんでもいい。なので、いいローンを選ぼうという姿勢が低いのだと思います。しかし、人生で一番高い買い物は住宅ローンです。苦労して隣町に100円安いキャベツを買いに行っている場合じゃないんです。一番高い買い物、住宅ローンを見直したほうがずっと人生のクオリティーが上がります。ですが、みんなそれに気づいていない。それがもったいないと思っています。私は前職で日本一住宅ローンに詳しい男と言われていたので、その知識を活かして世の中の人達にいい住宅ローンを選んでもらいたい、本当に買いたかった家を買ってもらうお手伝いをしたいと思い始めました。

なぜ住宅ローンだけでなく、テクノロジーを掛け合わせたのですか。

衣食住の中の住の部分はなかなか商品・サービスが磨かれていないんです。特に住宅ローンは人生において一回くらいの頻度なので、リピーターがいません。購入が低単価、高頻度のものはPDCAが回ってユーザーは、次はもっと良いものを買おうと意識します。例えば衣や食は相当進んでいます。衣ですとZOZOTOWNがあり、食だとAmazonがあります。しかし、住はネットでは買えないです。だからまだまだ住に関してはITの普及率が低く、いろんな産業別でITの普及率を見ても不動産はものすごく下なんです。住宅ローンテック、不動産テックはまだまだ日本として必要な産業だと思っています。今は特にリモートの時代なので、テクノロジーを活用して簡単にスマホでパッパッパとやるだけで数千万借りられる、手間を極限まで減らして効率的に一番いい住宅ローンが借りられる世界を作りたいと思っています。

人財活性や組織づくりへの取り組み

同社で大切にされている価値観を教えてください。

普通のベンチャーですとビジネスモデルを先に作りますが、私たちは面白いことにどんなビジネスをやるかより、どんな会社にしたいのかを創業時にずっと考えていました。そして私たちが出した答えは、何をやるかはどうでもいいから、誰とやるかを追求しようでした。その追求方法としてバリュー経営、社員ファースト経営、1000年経営の3つを挙げています。

バリュー経営とは、どんな価値観の人を大事にするかです。バリューは18個あるのですが、核論で分かりやすく説明していて、同じ価値観の人だけを集める会社にしたいと思っています。

二つ目は社員ファースト経営です。ほとんどの会社は顧客第一主義をおいていますが、顧客は社員の奥にいるので、我々は社員を一番大事にします。私の前職が顧客第一主義を掲げていて、お客様のためだからと言って社員は深夜1時、2時まで働いていました。一方でお客様のためと言っているが、離職率は一時期30%ぐらいありました。そうなると引継ぎ漏れなどが起き、回りまわってお客様に迷惑をかけてしまったことがありました。この経験を通じて私は、社員の幸せが手前にないとお客様の満足を得ることはできないということを感じました。

最後は1000年経営です。私はこの会社を1000年続けると言っています。10年続けるのであれば10年間のことだけを考えればいいのですが、1000年続けようと考えると自分が死んだあとも考えないといけなくなり、目線が一気に変わってきます。私たちは応援し合う地球をテーマに置いているので、地球のサステナビリティーも一緒に考えないといけません。1000年先のことを考えて行動しようということをみんなで共通理念として持っています。

窪田さんが目指す理想の組織像とは?

私はポニーが活躍する会社を創りたいです。サラブレッドはどこの会社でも活躍できますが、どこにいっても活躍できない人がいます。例えば社員の中で前職は居酒屋の店員をやっていた人がいます。iYellに来る前はオフィスワークの経験がなく、入社した時はエクセルって何ですか?ワードって何ですか?のレベルでした。しかし、4年経った今ではその人がいなければとある部門は成り立たないレベルです。ポニーが世の中のサラブレッドと真っ向勝負できるレベルになっているんです。

このように、私は社員の才能を開花させたいです。人はみんな才能がないと思っていますが、持っている才能があるんです。私からすると才能だらけの社員がいっぱいいます。一番分かりやすいのはマネジメントです。この人考え方も含めてマネジメントに向いているなと思うのに、自分はマネジメントなんてそんな大層なことできませんと言われます。その社員には2時間ぐらいこういう理由で向いていると説明して、その後に私にもできますか?と社員の気持ちが変わったところで、できるじゃなくてやりたいかどうかが大事だよと伝え、やりたいですとなると、じゃ毎月マネジメントの特訓をしていこうかと話をしていきました。自分ができるなんて思ってなかったことが、私だったり上司のアドバイスがきっかけとなって新しい才能に気づいた社員がたくさんいます。

上長は私も含めて社員全員の苗字と名前が言えます。通常は社員が140人もいると上の名前は分かりますが、下の名前は分かりません。iYellでは人のアイデンティティに興味を持つ文化を大切にしています。なので、みんな誕生日も覚えています。協力し合うためにお互いに興味を持つと、その人の才能が見えてきて、アドバイスしやすくなります。

社員の幸せや楽しさを追いかけていく施策や制度を教えてください。

いっぱいあります。例えば福利厚生は月一回増やすと決めていて、現在福利厚生は50数個あります。例えばホームカミングサポートと言って、遠くの家族に会いに行くための交通費があります。地方から東京に出てきた社員は、実家まで行くのに往復数万円かかってしまい、なかなか親に会いに行けません。親には年に一回ぐらいは会いに行ってほしいので、会社がお金を出すから会いに行きなさいと言っています。そうすると親が喜ぶんです。親がいい会社だねって言ってくれて、親からも応援されます。あと社員間の交流があります。最近コロナ禍なので難しいですが、コロナ前までは社員間交流の飲み会は会社が負担していました。月三回分くらいは会社が負担するので、どんどん飲みに行きなさいと言っています。社員間の交流が増えるとチームワークが生まれます。そういう福利厚生がいっぱいあります。

iYellでは中途社員が入社すると一ヶ月間研修をします。ベンチャーでは中途社員はすぐに仕事に入れたいので研修期間は一週間くらいですが、うちでは一ヶ月間iYellの文化を根っこから伝え続けます。研修では各部長が自分の部署やビジョンを説明したり、オフィスツアーをしたりして仲間との関係を大事にしてもらっています。研修最終日には全社員の前で自分が考えた福利厚生を発表してもらいます。最後に会社の価値観などを反映した福利厚生を考えアウトプットする機会があるので、より文化やミッション・ビジョンに対しての理解度が増していくのだと思っています。

共通の理念を大切にされている同社。採用時における工夫を教えてください。

私たちは面接では能力やスキルではなく、その人の人間性を見ます。採用もブックに答えがあります。採用はバリュー、我々と価値観があうかどうか、やりたい気持ちが強いかどうか、チームを大事にするかどうかと書いています。人事はこれを見れば採用時の評価軸が分かり、迷わなくなります。

また面接は育成だと書いています。中途採用の方で前職の殻が破けていない人は、剥がしてあげないといけない。面接では一回、今日は不合格ですと伝えて、これとこれとこれが剥がれていないから、君の本質はいい人なんだけど、剥がれるまで採用しませんと伝えて、剥がす気があったらこういう宿題をやってきてください、やってきたらもう一回来てくださいと伝えて最大3回くらい話をして殻を剥がしたことがあります。

応援し合う地球の実現を目指す同社。次のチャレンジを教えてください。

一つの目標は上場です。応援し合う地球を軸に経営をしていますが、この経営が成功なのだと証明しないといけないと思っています。青臭いことを言っているけど、結局ビジネスで成功していないと言われると他の会社は真似しようとしないです。私たちは青臭いこと言っても、ビジネスでは回りまわって成功するということを広げていかない。そのために上場は大事だと思っています。

もう一つはグローバル展開です。グローバル展開をすると、今私たちがぶつかっていない壁に絶対ぶつかると思っています。一つの仮設として、応援し合う意識は日本人ならではの話なのではと思っているからです。グローバルでは応援し合う文化や応援という意識が合いづらかったり、文化の壁にぶつかったりすると思っています。あとは宗教の壁です。そういう壁にぶつかった時にこういう経営手法でグローバル展開できるのかが最大のチャレンジになるかと思っています。

COMPANY PROFILE

理念・ミッション

  • 経営理念: 何をやるかより誰とやるか

社名

  • iYell株式会社

代表

  • 代表取締役社長兼CEO 窪田光洋

事業内容

  • 住宅ローンテック事業

    設立年

    • 2016年512

    社員数

    • 140名

    売上

    非公開

    所在地

    • 150-0043東京都渋谷区道玄坂2-10-7 新大宗ビル 1号館10

    受賞・表彰歴

    • 日本における「働きがいのある会社」ランキング小規模部門5位に選出
    • アジア地域における「働きがいのある会社」ランキング中小企業部門19位に選出

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