Columnコラム

OKR 人財イノベーション
2020.03.19

従来型人事評価制度から成長促進型人事評価制度へのシフト

従来型人事評価制度から成長促進型人事評価制度へのシフト

働きがいやエンゲージメントといったキーワードが重視される現代、海外の動向に目を向けると、Amazon、GE、Gap、Deloitte、Accentureといった企業において、人事制度を大刷新しノーレイティング(No Rating)という考え方を導入する大きな動きが起こっています。日本においても、約8割の人が勤務先の人事評価制度を見直す必要があると考えているという調査結果*1もあるように、評価制度の見直しを検討されている企業も多いのではないでしょうか。これには、従来型の「人口増加や新卒一括採用を前提とする人事制度」が通用しなくなってきているという背景があると感じています。

そこで本コラムでは、今後の人事制度のあるべき姿を検討する材料として、これまでの評価制度を振り返りつつ、先進企業が新たに取り入れ始めているノーレイティングを紹介しながら、評価制度と社員の成長との関係に着目していきたいと思います。

スタッフ・ランキング制度の元祖 9ブロック(9 Box)
現在、多くの国内企業が採用している人事評価制度において、人事評価面談は「社員の育成」と「評価の通知」という2つの役割を担っています。人事評価面談では、マネージャーから部下に定性的なフィードバックと合わせて、AからE等のランクや評点を伝えます。そして、ランクや評点に基づいて、昇給/昇格や賞与額等の処遇の決定が行われます。

上記の例で挙げた方法はスタック・ランキングと呼ばれ、社員を相対的に比較することで、意図的に評価の良い社員と悪い社員を明確に区別する評価制度です。この評価が社員間での競争を生み出すとともに、社員のモチベーションが喚起されます。そのため、この制度は企業の競争力の源泉として企業の発展にも寄与してきたといえるでしょう。

ここでは、スタック・ランキングの代表例として、9ブロック(9Box)と呼ばれる仕組みを考案し、運用していたゼネラル・エレクトリック社(以後GE社)の事例を紹介します。GE社は、世界130か国に展開し社員30万人以上を擁するグローバルトップ企業の一つで、1956年に世界で初めて、企業内ビジネススクールである「ジョン・F・ウェルチ・リーダーシップ開発研究所」を開設したことでも知られています。クロントンビルと呼ばれるこの研究所では、様々な先進的な人財育成が実施されてきたため、多くの企業が手本としています。

9ブロックは、社員を9つに区分し管理する方法で、業績という評価軸と、GE社が持つ企業バリューに合致する特性を持っているか(その組織で活躍できるポテンシャルがあるか)という評価軸の2軸で社員を評価する仕組みです。

業績が良く、ポテンシャルも高い社員は右上に位置付けられ、業績が悪くポテンシャルが低い社員は左下に位置付けられます。マネージャーが社員同士を相対的に比較し、9ブロックを用いて社員の配置を決定します。

GE社ではこの区分に合わせて処遇も決められてきました。右上に位置する社員は、次期リーダーとして昇格の対象となる一方、左下に位置する社員は解雇対象となります。昇給/昇格や賞与額等についても、この評価を基に決められてきました。

9ブロックを利用し、その組織において評価されるべき人(次期リーダー)を明確化することにより、対象社員に対しキャリアの早い段階から次期リーダーとしての自覚を持たせることができます。そのため、組織内で現リーダーの後継者候補を的確に選出できる仕組みとして機能してきました。この仕組みこそがGE社が優秀な人財を社内から多く輩出してきたと言われる所以です。代々CEOをプロパー社員が担い続けることができたのも、この仕組みの恩恵と言えるでしょう。

また、右上に位置する社員はスター社員として定義され、組織内のロールモデルとしての役割を担います。他の社員にとって、ロールモデルや目指すべき姿が明確であることは、育成の観点からも大きな意味をなしていたと想定されます。つまり、9ブロックは、社員本人の処遇に直結する評価であるとともに、目指すべき姿とのギャップを知らせる育成観点からのフィードバックを実現する仕組みでもあったのです。

スタック・ランキング評価の3つ課題
多くの企業が参考にしてきた9ブロックですが、GE社は2015年に廃止を発表しました。その頃、GE社だけでなくMicrosoft社やAdobe社のようなグローバルトップ企業の間で、スタック・ランキングに基づく評価を廃止する流れが生まれ始めていました。

スタック・ランキングの廃止の背景の一つに、製品マーケット競争の激化が挙げられます。より良い製品をより短サイクルで市場に出していかなくてはならない状況において、社員のパフォーマンスも短期間で改善していく必要があります。しかし、スタック・ランキングには、社員育成の観点から3つの課題がありました。

1つ目に、年に一度の人事評価面談では、過去1年間の実績に対する評価を伝えるに留まってしまい、改善の機会が少なくタイミングも遅くなる点。2つ目に、ランク付けの正当性や妥当性に納得を得るための説明に多くの時間が割かれてしまい、育成観点のコミュニケーションが希薄になってしまう点。そして最後に、ランクが評価の象徴として過剰に意識されるあまり、ポジティブなフィードバックも改善を求めるフィードバックも率直に相手に伝えられない、相手から素直に受け止められない点です。この3つの課題に対して、グローバルの先進企業はコロンブスの卵的な発想の転換を行いました。

ノーレイティングによって「事業推進と人財育成」を主役に
スタック・ランキングに置き換わる形で、グローバルトップ企業で導入が進んでいる制度がノーレイティングと呼ばれる仕組みです。ノーレイティングのねらいは、「処遇決定を目的とした評価」が人事評価制度の主役となっているのを改め、「事業推進と人財育成」を主役とすることにあります。ノーレイティングでは社員の評価に際して、そもそもランク付けを行いません。年に1回の面談で評価結果(ランク)を伝える代わりに、事業の推進や社員の育成を目的とした評価とは切り離したコミュニケーションを頻繁に実施します。そして処遇の決定はランク付けを経ずに行われます。スタック・ランキングにおける人事評価面談では「社員の育成」と「評価の通知」という2つの役割を担っていましたが、ノーレイティングではそこから「社員の育成」を主軸として切り出しているのです。

そしてノーレイティングを導入している多くの企業では、1on1のようにマネージャーと部下の間での、事業の推進と社員の育成のためのコミュニケーションが重視され、よりフランクにそしてタイムリーに、個人に合わせたフィードバックがなされます。1年前の事象についての評価をするのではなく、リアルタイムで部下の良い点・見直すべき点を共有できるため、部下の成長機会を増やすことができます。1on1のコミュニケーションにおいては、他者との比較も発生しません。また、1on1の内容が直接、処遇に結びつくわけではないので、マネージャー、部下共に、より率直に会話ができることがメリットです。

一方でフィードバックにおいては、マネージャーのコーチング能力が問われます。コミュニケーションにおいて、いつ何をどのようにフィードバックするかということは、部下のモチベーションひいては成長に大きく影響します。そのため、ノーレイティングを採用する企業の多くで、マネージャーのコーチングスキルを向上させるためのトレーニングが行われています。

2019年時点でアメリカでは、15%の企業がノーレイティングを導入していると言われています*2。製品マーケットにおける競争が激しい中、製品の優位性を保つためにも社員の成長はますます重要となってきています。製品・人財共にマーケットがグローバル化している今、評価や育成の在り方は変化してきており、従来のマネジメント手法がいつまでも有効とは限りません。

評価そのものではなく、事業の推進と社員の成長のためにより多くの時間をかけるシフトが起きています。処遇決定のための評価とは別に、社員の成長を最大化するための育成の仕組みを整えること、そしてマネージャーがいかに部下とのコミュニケーションを通した人財マネジメントができるようになるか、が鍵になると弊社は考えています。

(*1) アデコ株式会社「人事評価制度」に関するアンケート調査(2018年実施)より https://www.adeccogroup.jp/pressroom/2018/0618

(*2)Mercer’s 2019 Global Performance Management Surveyよりhttps://www.imercer.com/uploads/common/HTML/LandingPages/AnalyticalHub/june2019-mercer-2019-global-performance-management-survey-executive-summary.pdf

アンカービジネスコンサルティング株式会社
人財イノベーション コンサルティングチーム
監修:エグゼクティブ カタリスト 伊藤進一

一覧へ戻る